今回は現役介護士として10年以上の勤務されている「宇多川ちひろ」さんの著書「誰も書かなかった 介護現場の実態 現役介護士が直面する現代社会の闇」のレビューをしていきたいと思います。
2021年5月19日に発売された本書ですが、介護における諸問題は決して他人事では済まされない、一人一人が介護の現状を認識しておかなくてはならないと語られています。
今現在、介護ハラスメントや利用者虐待といった介護施設で勤務されている方には刺さる内容だと思うので是非最後までお付き合い下さい。
『介護現場の実態』の概要
本書は第一章から第五章までの構成となっており、特に注目したのは第一章と第三章です。
- 衝撃が走った事件
- 職員たちのトラブル
介護施設における介護あるあるがまとめられており、介護士の方なら見ごたえのある内容だと思います。
『介護現場の実態』の書評・感想
それでは実際に印象に残った箇所について、介護福祉士資格保有者の私が実際に感想を述べていきたいと思います。
第一章|衝撃が走った事件「危険な利用者」
介護の世界では利用者だけではなく介護士もまた、命の危険が及んだりさまざまな病気に感染したりするリスクを背負っているのだ。 引用:21P、第一章 衝撃が走った事件
実際に私の勤めていた老人保健施設でも、利用者が介護職員にセクハラをしようと追い回したり、夜中になると不穏になられ、他者の居室に侵入しようとしたりする事がありました。
どこの介護施設にも認知症による周辺症状でこういったケースは珍しくないと思います。
昨今では利用者からの介護ハラスメントが問題となっており、殴られたりしても労災にならない事を嘆いているツイッターアカウントもちらほらと見受けられます。
ここでは障碍者介護の内容で、拘束が必要なほどの心神喪失者の事件に触れていましたが、強烈な結末にゾッとしました。
事故が起こっても向き合わなければいけない現実に思わず目を背けたラストが印象的でした。
第一章|衝撃が走った事件「高齢者に投げ飛ばされる」
夕方症候群で帰宅願望の現れる利用者について語られている章ですが、こちらも介護士ならではのあるあるですね。
入口のドアへ向かい施設から出ようする方や「帰らなくてはいけない」とおっしゃられる方などケースは様々です。
帰宅願望のある利用者は認知度的には「心身耗弱者」である程度の理解力のある方が多いように感じます。
比較的頭のクリアな方が離設してしまう事について触れられており、著者が引き留めようとしたところ背負い投げをされたそうです。
女性スタッフでは危険と判断されご自身が対応した際に起こったようですが、てっきり著者の「宇多川ちひろ」さんは女の方だと思っていましたが、文脈からしてどうやら男性の方の可能性も浮上してきましたね。
実際に私もショーステイの利用者が離設してしまう事故に遭遇したことがあるので他人事とは思えなかったです。
利用者は職員が思っている以上に職員を観察されていることがよく分かる回になっており、とても共感しました。
ですが、一本背負いされてケロッとしている内容に少しばかり介護業界の闇を感じましたね…
受け身の出来ない一般人がそのような事をされたら脊髄などに重大な損傷を起こしている可能性もあるのに、その事については一切触れられていませんでした。
果たして著者は病院受診されたのか気になるところです。
第3章 職員たちによるトラブル「静かに〇される利用者」
何とも不穏なタイトルだが、こちらは問題行動のある利用者に対しての投薬治療について話されています。
ここで登場するのは自立歩行は可能だが収集癖があり、さらには職員を突き飛ばすという行動が見られていたそうです。
これらの原因はアルツハイマー型認知症によるものであり、会話する事も難しいとの事でした。
ある日、職員ではなく利用者を突き飛ばそうとされ、薬事治療する事になりますが最終的には退所する運びとなったそうです。
行先は迷惑行為や問題行動を起こして手に負えなくなった利用者が行きつく施設との事でした。
著者はその利用者を〇したのは私たちだ。と、おっしゃられていましたが、その事に関しては少しばかり違和感を覚えました。
では、他の利用者に危害を加えようした会話の出来ない本人を現場のマンパワーで支えられるのか?はっきり言って難しいと思います。
なので、薬事治療の末に適切な形態の介護施設に入所しただけであり、その施設を姥捨て山呼ばわりするのはちょっと違うのではないか?とは思いました。
まとめ【評価:8/10】
評価としては10点満点中8点といったところですね。
減点のポイントとしては、やはり問題行動のある利用者の薬事治療に関してはあまり納得出来なかった点です。
その薬事治療せず、問題行動のある利用者ばかり付きっ切りなんて現場が崩壊してしまいます。
だからといって別の解決策の提起などされていなかったのも気がかりでした。
一部介護士として違和感を感じる箇所はあるものの、全体として書籍としてのインパクトのあるエピソードが盛りだくさんで面白い書籍だと感じました。
Amazonのカスタマーレビューでも星4つですので、介護職の方にはおすすめの一冊ですね。
作者様からのリプツイート
彩図社様より発売中、「誰も書かなかった介護現場の実態」書店、ネット書店にて発売中です。
様々な人の終わりやその直前に起きている残酷な日常がどんなものか。
この残酷な日常は次は私達の未来の日常になるかもしれません。https://t.co/k17uyA4Td1
— 現役介護士 宇多川ちひろ (@utagawachihiro) May 31, 2021
著者の宇多川ちひろさんからリツイートを頂きました。
拝読させて頂きました。前半のリアルな介護現場の現状に共感することが多く、残虐的なものもありましたが書籍としてとても興味深い内容でした。ただ、アルツハイマー型認知症患者の薬物治療の件に関しては、介護業界の多くがブラックな労働環境が故にどうしようもできないとも感じました。
— 黒澤春 (@harukurosawa) November 19, 2022
ご感想ありがとうございます😊
介護は誰のためにあるのか。介護士の為ではなく、介護を受ける。介護を必要とする人の為にあると思っています。
ですが、現状介護士以外で介護の現実を知る人は殆どいないのが現状で、介護士以外の方に自分ならどうしたいのかを考えて欲しくて書きました。— 現役介護士 宇多川ちひろ (@utagawachihiro) November 19, 2022
介護は仕事であり、必要とされるから成り立つ。必要である事を多くの人が理解しているのに、何が行われているのかは理解されない。「介護士というだけで素晴らしい仕事だ」と言わないでほしい。というのはそんな思いから生まれた思いでした。
— 現役介護士 宇多川ちひろ (@utagawachihiro) November 19, 2022
介護士というだけで素晴らしい仕事だと言わないで欲しいという思いに共感しました。
決して綺麗事だけでは済まされない数多くの事が現場で起きている事を再認識する良いきっかけも頂きました。
必要とされているが何が現場で起きているのか?介護現場を取り巻く労働環境が少しでも良くなればと願うばかりです。