本記事では介護士の仕事で気になる労働基準法についてまとめてみました。
私は介護福祉士として特別養護老人ホームや老人保健施設、デイサービスにグループホームと施設型の介護職を経験してきました。
一般職と違い介護士のお仕事は早番、日勤、遅番、夜勤といったような変則的な勤務があったりと大変激務なお仕事ですよね。
介護士として働く皆さんが労働基準法のなかで気になるポイントや、労働基準法について解説していきたいと思います。
労働基準法とは
労働基準法は、労働条件の最低基準を定め、労働者を保護する法律です。 正社員、契約社員、アルバイト、パートタイマーなどの名称に関係なく、すべての労働者が原則対象となります。 近年、多様な働き方を実現するための働き方改革のもと、改正労働基準法が2019年4月より順次施行されています。
労働基準法とは、簡単にかみ砕いて説明すると、会社側と労働者自身の間における労働者を保護するための大切な法律です。
労働基準法は生存権の保証を目的としており、その最低基準を下回るような無理な労働は出来ない事になっています。
なので、現代社会では奴隷のような労働が禁止されています。そういったニュースを日本で見かけないのは労働基準法のおかげといっても過言ではありません。
労働基準法第32条【労働時間】
- 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について40時間を超えて、労働させてはならない
- 使用者は一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えさせてはならない
介護記録が終わらない、事故報告書を作成しなくてはいけないなどの理由で残業をするケースが多いですが、一週間で合計40時間を超えた時点でアウトです。
毎日の残業が積み重なった状態だと法律違反になっている可能性が極めて高いです。
一日の労働時間が8時間を超える場合も違反となるので、慢性的に残業させられている際は悪質な介護施設と言えるでしょう。
労働基準法第32条の2【変形労働時間制度】
- 1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の一定期間を平均して1週間あたりの所定労働時間が40時間を超えなければ、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができます。
- 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。
変形労働時間制とは、介護職のような常時稼働を止められない事業所において変則的な労働時間のなかで勤務時間を決める方法です。
介護士の場合は、日勤・夜勤の2交代制や日勤・準夜勤・夜勤の3交代制などでシフトを決めている場合が一般的です。
なので、シフト勤務の職場では変形労働時間制度を取り入れないと運営が成り立ちません。
労働基準法第61条【夜勤】
- 深夜労働(夜勤)の時間帯は「午後10時から午前5時まで」。
- この夜勤帯で働く労働者には、割増賃金の支払いが義務付けられており、通常賃金の場合は違法となります。
介護職の場合は夜勤手当として給料として支払われるケースが多いです。
なので一概に給料が安いからと違法になっている訳ではありません。
夜勤手当分がきちんと法令通り0.25倍給料として総支給額に加算されている際は違法では無いと言えるでしょう。
あくまで夜勤手当は任意に会社組織が設けているものであり、謂わばサービスといった労い的な意味合いが強いです。
なので、深夜割増賃金と混同されがちですがこちらは任意では無く、労働基準法で決められた割増賃金ですのできちんと支払われていない場合は違法となります。
夜勤手当を言い訳にうまくごまかされないよう注意しましょう。
労働基準法第34条【休憩時間】
- 労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない。
- 労働時間が6時間に満たない場合、休憩時間は与えなくてよいと規定されています。
介護業界の休憩で気になる点は日勤帯で「忙しいから休憩を所定通り取れない」といった問題が時々上がっています。
これについては上記の通り、通常の8時間勤務の場合はしっかりと一時間の休憩が取れない場合は違法行為となります。
休憩中に強制的に現場に戻れとの指示がある介護施設は問題のある事業所と考えて良いでしょう。
労働基準法第35条【休日】
使用者は、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
事業主は介護士に対して、定期的に法定休日を付与しなければならないと定められています。
介護職は週休二日制や四週八休制を導入している事業所が多く、休みに関しては比較的ホワイトとも言えるでしょう。
この決められた「法定休日」以外に「法定外休日」という休日があり、4日以上の休みがそれに該当します
こちらの法定外休日は雇用側が独自に設ける休日のことです。
ならば週1の休みで労働基準法を満たすのにも関わらず、介護事業所が法定外休日を設ける理由とは?
週の所定労働時間の上限を超えないために法定休日以外にもう1日休日を設けるケースが多いです。
労働基準法第36条【36協定(サブロク)】
- 法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と所轄労働基準監督署長への届出が必要となっています。
- 36協定(サブロク協定)では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などを決める必要があります。
介護職員を残業させるためにには、労働者と雇用主は上記のようにサブロク協定を結ぶ必要があります。
サブロク協定を結ぶことによって所定の労働時間以外に残業が出来るようになります。
サブロク協定を結んだからと言って無限に残業が出来る訳ではありません。
時間外労働の上限は、月45時間・年360時間と決められております。
しかし、特別の事情があった際は年720時間、休日出勤を含む月平均80時間以内、月100時間未満まで残業をすることが出来ます。
介護業界では年720時間の残業はまずあり得ないですが、月に40時間くらい残業している介護士の方も多くいらっしゃいます。
しかし、三六協定を結んでる際は45時間を超えない限り残業が違法ではないということになりますね。
労働基準法第39条【年次有給休暇】
- 労働基準法内で「雇い入れ日から6ヶ月継続して勤務し、全労働日の出勤率が8割以上」である場合に10日以上を付与しなければならないとしています。
- 年に10日以上の有給休暇が付与されている労働者には、必ず年に5日取得させなければいけません(労働基準法第39条7)
簡潔に言うと半年休まずに働くと有休を10日取れる権利がもらえます。
ここで気になるのが、忙しいから有休を取らせてくれないケースですね。
ですが2019年4月から、労働基準法の改正により年に5日の有給休暇の取得が義務化されました。
いつも忙しいから絶対に有休は取れませんという場合は違法行為になるので、普通に運営しているの介護事業所では、年に5日はどこかのタイミングで有休を取らせてくれると思います。
POINT有休消化のトラブルを避けるためにも早めに上司に相談して、取得できる時期か確認しておきましょう。
労働基準法第37条【割増賃金】
- 時間外労働に対する割増賃金は、25%以上の割増率となります。(60時間以上を超えた際は50%以上)
- 夜勤帯労働に対する割増賃金は、25%以上の割増率となります。
- 法定休日出勤に対する割増賃金は、35%以上の割増率となります。
休日出勤したから35%以上の割増だ!と喜ぶかもしれませんが、ここで注意なのが法定休日出勤の話であり、雇用側が設けた法定休日以外の場合はただの時間外労働になるので注意です。
時間外労働と夜勤の割増賃金は同等の割増率ですね。
ここで一番おいしいのは時間外労働と深夜勤務が重なると足し算で50%のの割増率になります。
時間外労働で22時を超えた際はきちんとこの割増率になっているか確認を怠らないようにしましょう。
POINT通常1時間当たり1000円で働く介護士の場合、時間外労働1時間につき、割増賃金を含め1250円以上支払う必要があります。法定休日出勤の際は1350円です。
介護士の気になるこれって労働基準法違反?
ここでは気になる労働基準法違反例や当てはまらないケースについて解説していきます。
残業代申請について
よく残業をした際は残業代申請を用紙に書いて提出する施設があります。
場合によって却下されるケースもありますが、時間外勤務を行った事実があって残業代申請が通らないのは法律違反と言えるでしょう。
だらだらとただ職員と会話していたという理由の場合は通りませんが、委員会活動や介護記録、事故報告書の作成で居残りしていた際はしっかりと残業代請求をしましょう。
有休の買い取り
原則、有給休暇の買い取りは違法となっております。
労働基準法第39条にて有給休暇の買い取りについて、要件を満たした労働者は有休給を取得できる権利があります。
そのため有給休暇の買い取り行為は、一部例外を除き違法となるのです。
では有給休暇の買い取りが認められるケースとは?
- 法律で定められた日数を上回る有給休暇
- 退職時に残っている有給休暇
- 時効になった有給休暇
上記の三点が特例で認められているケースとなります。
退職時に有休を全部使わせてくれない場合は原則、法律違反となるのでしっかりと取得するか買い取りをしてもらいましょう。
実は時効によって消滅した有給休暇の買取も可能です。
有給休暇は2年を経過すると時効になってしますが、ただ消滅しただけで放置するのではなくしっかりと買い取りしてもらえるように会社側と交渉しましょう。
夜勤の回数について
看護師には「72時間ルール」というものがり、入院病棟に勤務する看護師の負担軽減のため、平均夜勤時間を72時間以内するというものです。
しかし、介護職はこれに該当しないため介護士は何回も夜勤をしても問題ありません。
現に私の働いていた特別養護老人ホームは人手不足が故に一ヶ月の勤務の殆どが夜勤でした。
2021年の医労連の介護施設夜勤実態調査結果では、以下の通りとなっています。
3交替夜勤
3交替の施設では、9日を超えて夜勤に入っている職員は14.4%となり、前回よりも増えています。
また、夜勤の最多日数は昨年と比較すると改善傾向にありますが、依然として老
健は19日と多く、特養・介護医療院においても10日を超えています。2交替夜勤
夜勤が4回を超える職員は1,806人中723人にも上り、全体に占める割合は40.0%となっています。過去の調査結果をみても、GHや短期入所の夜勤回数が多くなる傾向があり、今回の調査ではGH夜勤者の60.8%が4回以上となっています。
介護職の夜勤は4~6回がスタンダードな時代から一変、三交代勤務の介護施設だと9日以上も夜勤業務をこなしているのが現状です。
又、昔ながらの二交代でも40%以上の介護士が4回以上の夜勤を行っています。
夜勤業務の回数が昨今では問題視されていますが、看護師の様に72時間ルールが無い以上頑張るしかないというのが現実の様です。

夜勤中の休憩なしについて
グループホームなどではワンオペ夜勤が多く実質夜勤中に休憩が取れていない介護職員が多いです。
しかし、先ほど紹介した労働基準法第34条では、原則として8時間越えで1時間の休憩を与えなければならないとされています。
休憩時間の定義として、どの勤務形態においても「労働者が業務を離れて自由にできるもの」と定義されております。
なので、現場を離れられない介護現場の場合、休憩では無く手待ち時間となり、正式な休憩時間と換算されず法律違反となります。
夜勤中の仮眠について
労働基準法第34条では、原則として8時間越えで1時間の休憩を与えなければならないとされており、実は夜勤中に仮眠を設けていない場合でも法律違反になりません。
あくまで雇用側が労働者に対して一時間の休憩を与えさえすれば、問題無いという事です。
しかし、16時間のロング夜勤は長時間労働に加え、日中と比べ人員配置も少ないので仮眠が無いと体力的にしんどいのは事実です。
そこを汲み取って、待遇の良い介護施設では労働者のことを考えて仮眠時間を設けていると考えて良いでしょう。
実は違反ではないワンオペ夜勤
例えば「特定施設(介護付き有料老人ホーム)」においては、「1人でも要介護者である利用者がいる場合は常に介護職員が1人以上確保されていることが必要である。」とされています。逆に言えば、最低1人の夜勤職員が居れば違法ではない、ということになります。確かに違法ではないワンオペ夜勤ですが、職員の負担や利用者さんの安全面を考えると、ワンオペ介護はあまり望ましいとは言えないでしょう。実際1人だと途中休憩もまともに取れないですしね。
夜勤のワンオペ勤務については現職の介護士もその過酷さから難色を示されている方も多いです。
しかし、法律上はワンオペ夜勤に関して違法ではないというのが現実です。
ただし、だからといって休憩の話でも触れたように、休憩時間が勤務中に与えられない場合は法律違反となります。
実際のところ休憩の取得時間については、勤務後何時間などの定義はなく、勤務中に取得すれば問題無いとされています。
なので、極端な話出勤一時間で休憩を取得してもそれは勤務時間内に取得したという事になるので法律違反にはなりません。
後半の余力を考えたら酷な話ですし、モラル的にどうかと思いますがそれが今の日本の法律なんですね。
介護士の労働基準法で勉強になるメディアまとめ
ここでは私以外にも介護の労働基準法について取り上げられているメディア様を紹介していきたいと思います。
ケアきょうさん

介護の仕事研究所さん

介護人事労務ナビ

労働基準法違反の介護施設で働いている方へ
働いている介護施設の風習を変えるのはとても困難です。
理由としてはそれがまかり通っているのにも関わらず施設は平常運転だからです。
さらに労働基準法では違反で無くてもワンオペ夜勤などの労働問題で悩んでる介護士さんも多くいらっしゃいます。
現状を変えようにもそれが施設の運営理念であるとするなら労働者側がいくら訴えても変わる事はますないでしょう。
そういった際はきちんと夜勤中の仮眠を設けたり、介護職員を労わっているホワイト介護施設に転職するのが手っ取り早いと言えます。

最後に
いかがでしたか?
皆さんが働いている介護施設はきちんと労働基準法は守られているでしょうか?
今回の記事を見て介護あるあるな、これって法律違反なの?という疑問が少しは解消されたと思います。
法律違反を行っている介護施設で働き続けると確実にお金という形で損をしますし、何よりそんな不条理な環境下で仕事をしていたらモチベーションも上がりません。
やはりきちんと法令を遵守したまともな介護事業所で働くことが健全かつ、幸せに人生を送れる事でしょう。